広島県府中市教育委員会は、本年度から市内の公民館での飲酒を全面的に禁止する方針を打ち出した。これまでは「原則禁止」として、地域イベント後の慰労会などに限り例外的に飲酒を認めていたが、今年4月からはその例外も廃止され、完全な禁止に踏み切った。この決定の理由には、公民館を子どもから高齢者まで幅広い世代が利用する生涯学習の場として位置づけ、飲酒がその目的にふさわしくないとの判断があったとされている。
一方で、地域住民の間からはこの措置に対する戸惑いや懸念の声も上がっている。公民館での飲酒は、長年にわたり地域コミュニティの交流の一環として定着していたため、飲酒禁止によって住民同士のつながりの場が減少するのではないかと危惧されているのだ。たとえば、12月中旬に木野山町の協和公民館で開催された「公民館まつり」の反省会では、これまで並んでいたビールに代わり、ノンアルコールビールが提供された。これに対し、実行委員長を務める下恒太郎さん(80歳)は、「決まったことだから仕方ないけれど、やはりビールがあるほうが話が弾む」と寂しげな様子を見せた。
また、地域行事の運営にも影響が出ている。久佐町町内会では、11月下旬の祭りの反省会の会場を公民館から地域体育館に変更。さらには、1月に予定されていた消防団の出初め式後の懇親会を中止する決定も下されるなど、飲酒禁止の影響は地域全体に波及している。
この問題は、市議会定例会でも取り上げられ、市議からは「無粋な対応に感じる」として、市教育委員会に柔軟な運用を求める意見が出た。しかし、教育委員会の大川幸雄教育部長は、「公民館は子どもたちの活動の場でもあり、酒を好まない大人もいます。誰もが安心して利用できる場所を目指すため、この決定にご理解いただきたい」と説明している。